コロナウイルスは鼻腔に侵入し、増殖し、口からウイルスを排出します。鼻腔の粘膜にはウイルス結合するACE2受容体があります。香りと関係する嗅覚受容体は鼻腔だけでなく舌、肺、心臓、口、腎臓、腸などにあり、そこにはACE2受容体もあります。このことは香りを嗅ぐことは何らかの影響を与えることになります。前回のブログで精油の香り成分であるユーカリの1,8シネオールがウイルス複製に必要なセリンプロテアーゼを阻害します。香りを嗅ぐことは鼻腔粘膜免疫に影響を与えるのではないかと思います。香り成分とコロナウイルスの関係をもっと調べてみたいです。
The central role of the nasal microenvironment in the transmission, modulation, and clinical progression of SARS-CoV-2 infection
https://www.nature.com/articles/s41385-020-00359-2
新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症の感染症の感染、調節、臨床的進行における鼻腔内微小環境の中心的役割
Abstract
要旨
The novel coronavirus SARS-CoV-2 enters into the human body mainly through the ACE2 + TMPRSS2+ nasal epithelial cells. The initial host response to this pathogen occurs in a peculiar immune microenvironment that, starting from the Nasopharynx-Associated Lymphoid Tissue (NALT) system, is the product of a long evolutionary process that is aimed to first recognize exogenous airborne agents.In the present work, we want to critically review the latest molecular and cellular findings on the mucosal response to SARS-CoV-2 in the nasal cavity and in NALT, and to analyze its impact in the subsequent course of COVID-19.Finally, we want to explore the possibility that the regulation of the systemic inflammatory network against the virus can be modulated starting from the initial phases of the nasal and nasopharyngeal response and this may have several clinical and epidemiological implications starting from a mucosal vaccine development.
新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、主にACE2受容体(アンジオテンシン変換酵素II)+ II型膜貫通型セリンプロテアーゼTMPRSS2+鼻腔粘膜上皮細胞を介して人体に侵入入る。この病原体に対する初期の宿主応答は、鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)系から始まり、外部の空気中に浮遊する物質を最初に認識することを目的とした長い進化過程の産物である特異的免疫微小環境で起こる。本研究では、鼻腔およびNALTにおけるSARS-CoV-2に対する粘膜応答に関する最新の分子および細胞の所見を批判的に検討し、その後のCOVID-19の過程での影響を分析したいと考えています。最後に、ウイルスに対する全身炎症ネットワークの調節が、鼻腔や鼻咽頭の反応の初期段階から調整できる可能性を探り、これが粘膜ワクチンの開発をはじめとするいくつかの臨床的・疫学的な意味を持つ可能性を示したい。
ACE2 :Angiotensin-converting enzyme 2、アンジオテンシン変換酵素II
MPRSS2とは、呼吸器上皮に発現している宿主のタンパク分解酵素のひとつである。
TMPRESS2(Transmembrane protease, serine 2)II型膜貫通型セリンプロテアーゼ
nasal epithelial cells :鼻腔粘膜上皮細胞
nasopharynx 鼻咽頭
Nasopharynx-Associated Lymphoid Tissue (NALT) :鼻咽腔関連リンパ組織 (NALT)
systemic inflammatory network 全身性炎症ネットワーク
Introduction
序論
The nose represents an important component of the mucosal immunity in upper airways (UA), and it is involved both in host protection and immune homeostasis between the commensal microbiota and invading pathogens. Phylogenetically, the nasal cavity and the nasopharynx-associated lymphoid tissue (NALT) constitute an ancient barrier system that can be found even in early bony vertebrates.1,2 While in rodents, this immune compartment is found in the floor of the nasal cavity (hence the name nasal-associated lymphoid tissue), in humans it is more properly referred to as NALT since it is located in the most cranial pharyngeal mucosa.2 Strikingly, this tissue has coevolved along with the olfactory system under the same evolutionary forces, both in terrestrial and in aquatic animals.3 In addition, being in direct physical contact with the external environment, the nasal mucosa routinely filters, moistens, and warms the inhaled air to minimize the irritative effects on lower airways, to maintain the mucociliary clearance, and to favor gaseous exchanges.4,5
鼻は上気道(UA)における粘膜免疫の重要な構成要素であり、それは、常在菌細菌叢と侵入病原体との間の宿主保護および免疫恒常性の両方に関与している。系統的には、鼻腔および鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)は、初期の骨のある脊椎動物でもみられる古代のバリアシステムを構成する。げっ歯類動物では、この免疫区画は鼻腔の底(そのため鼻関連リンパ組織と呼ばれています)に見られ、ヒトでは最も頭蓋咽頭粘膜に位置するので鼻咽頭関連リンパ組織NALTと呼ばれることがより適切である。2驚くべきことに、この組織は、陸上動物と水生動物の両方で、同じ進化力の下で嗅覚システムと共に進化してきました。 さらに、外部環境と直接物理的に接触することで、鼻腔粘膜は、吸入空気を日常的にろ過し、給湿しし、温め、下気道 への刺激作用を最小限に抑え、粘膜繊毛除去を維持し、ガス交換を有利にする。
mucosal immunity :粘膜免疫
upper airways (UA),:上気道
commensal microbiota常在細 菌叢
Phylogenetically 系統的に
vertebrates rodents げっ歯類脊椎動物
rodents げっ歯類
immune compartmen:免疫の区画
各種免疫細胞が種類ごと に分かれて存在する「組織区画」
cranial pharyngeal mucosa 頭蓋咽頭粘膜
mucociliary 粘液線毛
gaseous exchanges ガス交換
Through both innate and acquired immunity, the nose and NALT play a central role in the induction of mucosal immune responses, including the generation of Th1- and Th2-polarized lymphocytes, and IgA-committed B cells.1,3 Together with other cellular elements, such as dendritic cells (DCs), microfold (M) cells, and macrophages, nasal epithelial ciliated and goblet cells form a unique gateway involved in the induction of the local and systemic response to a wide range of pathogens and allergens.1,6 Accordingly, intranasal immunization is able to activate an antigen-specific protective immunity in both the mucosal and systemic immune compartments.7
鼻と鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)は、自然免疫と獲得免疫の両方を通して、Th1細胞およびTh2細胞極性リンパ球や免疫グロブリンA(IgA)コミットB細胞の生成など、粘膜免疫応答の誘導に中心的な役割を果たしている1,3。樹状細胞(DCs),マイクロフォールド(M)細胞およびマクロファージなどのどの他の細胞要素とともに、鼻腔上皮の繊毛細胞や杯細胞は広範囲の病原体やアレルゲンに対する局所的および全身的な反応の誘導に関与するユニークなゲートウェイを形成している1,6。したがって、鼻腔内免疫は、粘膜および全身性免疫領域の両方で抗原特異的な防御免疫を活性化することができる7。
Th1細胞は、細菌やウィルスなどの異物に対して反応します。
Th2細胞は, サイトカインを産生
IgA(Immunoglobulin A)免疫グロブリンA・抗体の一種
抗体とは、侵入してきた病原体にくっついて、これを無力化するように働く免疫物質。タンパク質でできており、免疫グロブリンとも呼ばれます。鼻汁、涙腺、唾液、消化管、膣など、全身の粘膜に存在しています
dendritic cells (DCs):樹状細胞 (DCs) ・T細胞に抗原の情報を伝達し、免疫反応を開始させる。
microfold (M) cells:M細胞・抗原取り込み細胞である
ciliated cells 線毛細胞・体内へ侵入する異物を除去する線毛
goblet cells 杯細胞・粘液を分泌
intranasal immunization 鼻腔内免疫
The Severe Acute Respiratory Syndrome-CoronaVirus-2 (SARS-CoV-2) is a novel RNA beta-coronavirus of probable zoonotic origin that is currently causing an unprecedented pandemic.8 The disease originating from SARS-CoV-2 is known as COronaVIrus Disease 19 (COVID-19) and it develops initially as a respiratory infection but, in some individuals, it may progress to systemic involvement. Like many other airborne viral diseases, penetration into the UA is the first step of the infection, as a higher viral load was found in nasal swabs when compared to throat swabs.9 By single-cell RNA sequencing, nasal epithelial cells were shown to express the highest levels of angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) and of the cellular serine protease TMPRSS2, both working as the main entry receptors for SARS-CoV-2 following interaction with viral (S)pike protein.10,11,12 Given that the nose is not only the mere entry site but also the main target of SARS-CoV-2, understanding the initial host–viral interaction in the nasal and NALT microenvironments may be one of the keys to understand and modulate the systemic inflammatory response.11 In this paper, we want to critically review the currently available cellular, experimental, and clinical data regarding the central role of the nose and the NALT in the transmission, modulation, and progression of COVID-19.
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)は、人獣共通感染症に由来する可能性の高い新規のRNA β-コロナウイルスで,現在,前例のないパンデミックを引き起こしている8。新型コロナウイルスSARS-CoV-2に起因する疾患は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)として知られており、最初は呼吸器感染症として発症しますが、一部の人では全身性の病変に進行することもあります。他の多くの空気感染性ウイルス疾患と同様に、上気道UAへの侵入が感染の最初のステップであり、喉の綿棒と比較して鼻の綿棒では高いウイルス量が検出されました9。シングルセルRNAシーケンスのデータ解析によって、鼻腔粘膜上皮細胞は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と細胞性セリンプロテアーゼTMPRSS2を最も多く発現していることが示された。これらの2つの酵素は、ウイルスのスパイクタンパク質との相互作用により、SARS-CoV-2の主要な侵入受容体として働く10,11,12鼻腔は単なる侵入部位であるだけでなく、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)の主な標的でもあることを考えると、鼻腔および鼻咽頭関連リンパ組織NALTの微小環境における初期の宿主ウイルス相互作用を理解することは、全身性炎症反応を理解し、調節するための鍵の1つかもしれません。 この論文では、COVID-19の感染、調節、進行における鼻腔および鼻咽頭関連リンパ組織NALTの中心的役割について、現在入手可能な細胞、実験、臨床データを批判的にレビューした。
Single Cell RNA-seqデータ解析
Single Cell RNA-seqはNGSを用いて細胞1つ1つの遺伝 子発現を解析する手法です。マイクロ流路や液滴(ドロッ プレット)を使って1細胞ごとのcDNAライブラリーを調製 する技術が発達してきたことにより、近年、がん・免疫・幹 細胞・発生・脳神経など幅広い分野で利用が進んでいます。
用語
*粘膜免疫システム—生体防御の最前線
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/114/11/114_11_843/_article/-char/ja/
抄録
生体防御の上で極めて重要な位置にある粘膜には, 粘膜免疫として知られる全身免疫とは異なる巧妙な免疫システムが構築されている. 粘膜固有の免疫担当細胞としてB1系B細胞やγδT細胞, またNK22細胞などが見出され, それぞれ重要な役割を果たしている. また, 粘膜面に, 病原体に対する防御に不可欠な, 抗原特異的分泌型IgAを効率的かつ臓器特異的に誘導するメカニズムとして, MALT (粘膜関連リンパ組織) を中心とした粘膜免疫システムが構築されている.
*感染症対策、今やるべき免疫力アップ術
|〜粘膜の健康を守って、ウイルスの侵入を防止しよう!〜
https://www.d1yk.co.jp/info_health/2020/09/post-56.html
かぜなどのウイルスや細菌感染対策には、体の免疫力強化に加えて、それらの侵入口である喉や鼻などの粘膜の健康を守ることも大切です。
感染対策として、ヨーグルトや納豆などを食べて免疫力を上げるように気をつけている方も多いと思います。一方で粘膜の健康対策は、見落として実施していない方が多いのではないでしょうか。
今回の健康情報は、粘膜の健康を守って感染対策に役立てるためのポイントをご紹介いたします。
粘膜免疫をご存じですか?
免疫力は、ウイルスや細菌などの敵から体を守る力です。私たちの免疫力には、「粘膜免と「全身免疫」があることをご存じでしょうか。
日々の生活の中で私たちの体は、自然界に存在する無数のウイルスや細菌などの危険な異物(敵)にさらされています。これらの異物が粘膜から体内に侵入しないように私たちの体を守っているのが粘膜免疫です。
粘膜免疫が働く場所は、目、鼻、口、喉、腸管などの粘膜で、異物が粘膜を介して体内に入るのを防いだり、体外に出してしまうことで体を守っています。
しかし、数が多い場合、感染力が強い場合、粘膜の健康状態が悪い場合など、粘膜免疫が破られて異物が体内に侵入してきます。
体内に侵入したウイルスや細菌などの異物に対して働く免疫が全身免疫です。
全身免疫では、免疫細胞がウイルスや細菌などを捕食したりして排除します。全身免疫が働く時の発熱には、免疫細胞を活性化させ、ウイルスを弱体化させる作用があります。
免疫力というと、全身免疫のみを思い浮かべる方が多いように思いますが、ウイルスなどの感染症を防ぐには、全身免疫だけでなく異物の侵入を防ぐ粘膜免疫を強化することも非常に重要です。
*内なる敵:SARS-CoV-2が人体のタンパク質を利用して細胞に感染する仕組み
https://www.cas.org/ja/resource/blog/covid-19-spike-protein
何らかの方法でSARS-CoV-2が細胞に侵入ウイルスが細胞と結合した後の侵入経路には2つの異なる可能性があります(図2)。使用される経路は、スパイクタンパク質を「刺激する」人プロテアーゼが存在するかどうかによって変わります。プロテアーゼの有無はウイルスが侵入する人細胞の種類およびその細胞の特定の状況によって異なります。いくつかの人プロテアーゼはスパイクタンパク質を分割できますが、これにはII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)、フリン、エラスターゼ、トリプシンが含まれます。TMPRSS2は人の肺細胞に発現します。したがって、呼吸器系の細胞へのウイルス侵入において重要な役割を果たしてると考えられています。
Recent Comments